ホームドアはどの駅にでも付けれるの…か?

ホームドア絡みの記事を書くこと自体がコメント欄に怖いものがありますが…。
こういうのって、需要があるみたいですので。
続きはかなりの長文です。ごめんなさい。

はじめに

あたしはホームドアをできればつけてほしいと思っている人です。
…故意でない人身事故、あるいはそれに順する案件(例えば接触事故とか)が減れば、列車遅延も減ると思っていますし。実際、そうですしね。
ですが、闇雲に「ホームドアをつけろ!」なんて叫ばれては困ります。
これから説明していくように、いろいろな問題があるからですが。
今回はホームドアと鉄道事業者とを取り巻く問題を知って、それから解決策を探る契機としてもらうべく、これを書きました。
もっとも、これをどう受け止めるかはあなた次第ですけどね。

1.ホームドアの設置が望まれるわけ

2001年の山手線・新大久保駅乗客転落事故以後、声高に…というわけではないですが、そこそこ叫ばれているのが駅にホームドアを設置することです。
つい最近の「新小岩駅での巻き添え負傷者が出た人身事故」*1のときもTwitter上ではそんな声があったように思います。
近年では、マスコミも「人身事故防止=駅にホームドア設置」という短絡過ぎる構図で取り上げていますが、ホームドア自体は事故防止に向いています。なぜなら、線路に電車が来ない限りドアが開かないわけですから、線路に落ち得ないからです。
もっとも、ホームドア制御装置自体の故障でホームドアが開く…なんてこともありえなくはないですが…。
事故防止である以上、故意のもの(従来の"飛び込み自殺"など)は防げない可能性があります。
極論、ドアを越えれば線路に入れるわけですから。
むろん、実行する人が出てこないことを望みますけどね…
今回は、高松さとし練馬区議会議員(@takamatu)の発言に触発されてこの記事を書いています。
氏は保谷駅での人身事故について(9/11段階で)「西武線にホームドア設置を要望しないといけませんかね、明日の会ででもお話できれば。」とおっしゃりました。
上にも書きましたが、ホームドアが付けれない実情を把握して、それからモノを言ってほしいものです。

個人的には

事故を防ぐ「ホームドア単独」よりは、より安全を高める(飛び込めなくさせる)ため、電車側面の全面を覆う「ホームドア+囲い」(フルスクリーン形)の方がいいとは思うんですけれども…。
うーん、やっぱりホームドアの方が安いわけか、なかなか普及しませんね。

2.ホームドアが設置できないわけ

さて、要望が出ても各駅に設置していないのには、どうしようもない訳があります。
それをまとめて、3つの類型として下に書いてみます。

類型1:運行している車両に問題があるケース

具体的には、その駅を発着する列車の編成長*2やドア数・ドア間隔・ドアの幅が異なるケースです。
わかりやすく言うと、「ホームドアと車両が合わない」あるいは「ホームドアと車両のドアが合わない」と。
これが一番ホームドア導入を阻害する要因だと思います。
というのも、列車側のドアとホームドアの「数が異なる」「ドアの位置が異なる」と、現状のシステムではいずれのドアも開けれません。
*3
物理的に、ホームドア装置ごと可動するタイプのホームドアも、JR西日本会社が開発こそしてはいますが、実用面ではまだまだです*4。なので、当分製品になることはないでしょう…。

話を元に戻して…。
ここでは、例えばのケースで、あたしの一番身近な路線、阪和線を出してドア数にごとに分けてみます。

  • 特急列車の停車する駅

1ドアの特急、3ドア車・4ドア車が同じホームに共存するケースが、和泉府中日根野和泉砂川で存在。
非常時に停車する堺市・長滝も同様ですが…。
なお、天王寺環状線ホームが上の型で、阪和線ホームは下の「快速の停車駅」の型にはまる(どの型にもはまらないホームもある)特異な存在です。

  • 快速の停車駅

現状、3ドア・4ドアが共存。
仮に、快速と普通車の運用を分離したとしても、少なくとも堺市三国ヶ丘ではドア数の異なる編成が同じホームに止まることになります。

  • 鳳以北の各停停車駅

定期の各停では4ドアです。
しかし、鶴ヶ丘駅では快速の臨時停車が稀にある上に、各停の代走で3ドア車が停車することもあります。

  • 鳳以南の各停停車駅

各停で4ドア、区間快速で3ドアが混在。
ほぼ全駅で3ドア・4ドアが混在することになります。

上記の4つの形の通り、阪和線の場合、代走を考慮すると天王寺駅阪和線ホーム以外で設置が不可能となります。
代走を考慮しない場合でも、天王寺駅阪和線ホーム〜津久野間でしかホームドアが設営できません。
このようなことが、日本全国のほとんどの路線であるわけです。

ちなみに、この記事を書くきっかけになった保谷駅のある西武池袋線もこの類型のため、ホームドアが設置できません。
特急車は1ドア、さらに秩父線直通の2ドア、通勤用の3ドア・4ドア…。
上の阪和線の例と似通っていますね。

類型1':何らかの理由でドア位置を変更するケース

類型1に近いですが、車両は一緒なので別に分けました。
例えばのケースで大阪駅を挙げてみます。
JR神戸線ホームはJR宝塚線と共用していて、
Dscf0180
上図右上側のように乗車位置が別れています。
列車のドア数はおろか、車両も一緒(207/321系)なので、類型1にはまらないケースです。
この類型1'は大阪駅や、名鉄名古屋駅など、混雑しやすい駅で多いように感じます。

類型2:ホーム自体に問題があるケース

このケースは、分かりやすく言うと「ホームが狭い、あるいはホームドアの重さにホームが耐えれないなどの理由で、ホームドアの取り付けができない」というものです。
阪神線・春日野道駅などがホームが狭いケースの例で、狭いケースはそう解消できません。
というのも、線路を移設する土地がない(移設してからホーム拡張するため)…などの理由です。
逆に、ホームドアの重さにホームが耐えれないケースは、耐震工事などと同時施工などで解消されていくと思います。
だって、いい契機となることが半年前にありましたしね。

類型3:会社側に問題のあるケース

これは単純に言うとお金がないという理由です。
分かりやすくいうと、「ホームドアを設置するのにはお金がいるけど、そんなお金があるなら別のところにつかわないと…」というケースです。
ちなみにホームドア自体の価格は1mあたり98万円程度(都営大江戸線) *5です。
ちょっと…高いですよね。
こればかりは、地方自治体・国に補助金制度をつくってもらわないと…ちょっと無理があるかもしれません。ほら、某JR西とか…ね。

補足:列車側に定位置制御は必要か。

一般に、ホームドアの着いている路線はTASC(定位置停止装置)たるものが車両側に搭載されています。
ホームドアに合わせて止めるには、あたりまえですけども、決まった位置に止めないといけないわけですから。
で、ごく一部の例外(羽田空港国際線ターミナル駅北新地駅)を除いて、TASC、あるいはATO(自動列車運転装置)を搭載した上でホームドアを運転しています。
ですが、運転士の負担を考慮しなければ、そんな装置は不要です。
…普通は付けますけどね。
上記2駅は装置なしで運転しています。
これは、その路線にその駅にしかホームドアがないから。
もし仮に他の路線に拡大してホームドアを付けるとなるならば、確実にTASCなりATOなりを搭載すると思いますけどね。

3.ホームドアを付けるには

さて、上でホームドアを付けれないケースの3類型を書きました。
なら、逆にホームドアを付けるにはどうすればいいでしょう。
下に3つほど書いてみましょうか。

  • 車両のドア数・幅などを統一
  • ホームを一定以上の幅に拡張するなどする
  • 経営の厳しいところでは自治体・国が補助金などを出す

まとめたはいいけども…やっぱり、実現は難しいわけです。

補足:類型1でホームドアを付けるには?

運用している車両のドア数が原因でホームドアが付けれない場合、ドア数の統一が必要になります。
ほとんどの場合は運用車両を新車に置き換えるわけですが…。
上の類型1で出した阪和線のケースで考えると、仮に特急車以外を3ドア車の225系5000番台に統一するとして、161両(現在の4ドア車の在籍数)*1.3億円(1両あたりの金額)??210億円
さらに35駅・44駅+天王寺・和歌山の14個分*6のホームドアを付けるわけですから、上の式を流用して、97万円*58駅*20m*6両=67.5億円。
実際には8両や9両編成が止まる駅があるため、70億円程度でしょうか。
足して280億円くらい。
モデルケースですが、最低限*7これだけかかります。
いかにホームドアにお金がかかるかがわかりますでしょうか。

4.おわりに。

というわけでホームドアの付けるためにはいろいろな困難があることを説明してきました。
ホームドアの無い駅で人身事故が起きて、それを契機に「安全軽視」とJR西日本を叩く人が発生したのは記憶に新しいですが→まとめよう、あつまろう - Togetter、ホームドアの整備がされないのは「鉄道事業者の怠慢」ではなく「鉄道事業者の実情」なのです。えぇ。
不景気だからお金ないし…ね。


…しかし、鉄道事業者が不憫ですね。
ホームドアを付けたくてもいろんな理由で付けれない。
で、人身事故が起きて、叩かれる。うーん。どうしたものやら。

続・おわりに

この記事を書くきっかけとなった高松氏はしっかりとこの記事を読んでくださったようで

読みましたよ。ご教示ありがとうございます。ご指摘のとおり、現時点では不可能に近い、ということは理解しました。ただ、政治の仕事は5年、10年かけて行うことでもありますので、大きな観点で考えてまいります。(無論ホームドアありきではありません)

とリプライを飛ばしてくださいました。ありがとうございます。
ただ、西武池袋線に関しては特急車がいる限り、全駅全ホームにホームドアは厳しいと思います。
むろん、通勤形のドア数を統一すれば、概ねの駅でホームドアが付けれるわけですから、既存車が耐久年数を超えて、なおかつ新型車を導入し、3ドアあるいは4ドアに統一することになればホームドアは導入しやすくなる*8わけで。
その点では長期的な観点が必要ですね。
あたしは、あくまでも現状のことを書いただけでしたので、そこまで考えてくださるとはありがたいことです。

追記メモ

9/12-16:30→初回完成
9/12-20:32→類型1'追記
9/13-22:00|23:45→大幅追記

件の炎上した人のように、ただ突っぱね、突っかかるだけではなく、しっかりと現状を理解しようとし、どうすればいいか考えたこと。
そういうまともな政治屋さんがいることを改めて知りました。
そういう意味ではいつもとは違う、「本気な長文記事」を書いてよかった…のかな?とも思ったりしていますが。

*1:http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110712/dst11071211380013-n1.htm 「7月12日午前10時10分ごろ、東京都葛飾新小岩のJR新小岩駅3番線ホームで、40〜50歳ぐらいの女性が、通過中の成田空港発大船行き特急電車に飛び込んだ。女性は電車にはね飛ばされ、ホーム上にいた別の乗客にぶつかったうえ、ホーム上の売店内にたたきつけられた。」というもの。

*2:阪神線における近鉄車。あるいは近鉄線における阪神車。あるいは南海高野線の18m車と20m車など

*3:2ドアの両端ドアが3ドアの両端ドアと同じ位置の場合は、3ドア用ホームドアをつけて、2ドア車が入線するときには、3ドア車の真ん中ドアにあたるホームドアを締め切って使うケースはありますが…

*4:ですから、西日本会社は現状、従来のホームドアを導入しています

*5:100億円/16m*8両*40駅*上下線=97万ちょっと。16mは車両長。2駅多いのは、一部駅に4つのホームがあるため。

*6:現在使用しているホームだけで計算しています。

*7:TASCなどの追加設備設置費を除いてこの金額ですから。

*8:ホーム拡張やらなにやらをしないと駅にホームドア自体を設営できない可能性もありますが…